「どうしても行くのか?」
「行く!」
「もう一度よく考えるんだ。あそこに行ったら、簡単には戻ってこれないんだぞ」
「よく分かってる。でも、私の理想の愛の星なの」
男はため息をついた。
「理想の愛の星。君にはそう見えるかも知れないが、現実は厳しいぞ」
女は挑戦的な目で男を見返した。
「理想の星よ!あのルシファーを受け入れたのよ!ここのような生ぬるい星じゃないのよ」
「そこだよ。あのルシファーを受け入れたんだ。何があるか分からない。君には理想の愛の星に見えるかもしれないが、混沌とした世界だ」
「誰でも、どんな魂でも、あの星で愛を育める。それこそが理想よ!
この星の人々を見て。同じような人々だけが集まって、手を取り合って暮らしてる。愛だ、美だ、優しさだって言ってるけど、異端は受け入れもしないで。それがここの愛なのよ!」
「当たり前じゃないか。同じレベル同士が協力し合って、自分達を高める。ここはそういう星だ。それが僕達に求められている課題なんだ」
「だから私は行くのよ。あなたはここに残ればいいわ」
男は女をジッと見た。頑なな意思の奥に、不安な気持ちがかすかに揺れている。
「君を危険な目に合わせるわけにはいかない」
女は、喉元まででかかった言葉を無理矢理押し込めて、さらに挑発的な言葉を並べた。
「私が行くからあなたも行くなんて、止めて!私のためじゃなくて、自分の意思の元に行くのならいいけど」
「僕の意思では行かないよ。けれど、君を一人で行かせるわけには行かない」
「そんなの変よ!」
「変でも何でも、君を一人では行かせない」
女は泣きそうになった。その気持ちをグッとこらえて、言った。
「勝手にすればいいわ。私はもう行くわ!」
女は男に背を向けると、相棒の龍に乗り、アルクトゥールスを飛び立った。
男は本当に自分の後を追いかけてくるのだろうか・・・。振り返りたい衝動を何とか押さえ込み、前だけを向いて。
「そろそろ振り返ったらどうだ?」
男の声が身体に響く。
思わず振り返った女に、男の姿が見えた。
「ほんとに頑固なヤツだな」
男は笑っていた。
女は慌てて前を見た。涙があふれてきたからだ。
(それから長い年月が流れた)
「私はあの島に行かなくちゃならないみたい」
「やっかいだな。あの島は結構波動が重いぞ」
「だから行くんでしょ。それが私の役目みたいだし」
「そんな急いで行かなくても大丈夫だよ。僕も休みが取りにくいし」
女は、男に向き直った。
「別に、あなたに一緒に来てもらいたい訳じゃないわ。私一人でも大丈夫だし」
「大丈夫じゃないよ。すぐ憑依されるじゃないか。そんな島に一人で行くなんて、考え無しもいいところだ」
「私のために行くって言うの、止めてくれない。あなたの意思で行って欲しいわ」
「僕の意思なら、行かないよ。君が行くから、僕も行くんだよ」
「私は関係ないでしょ。あなたが行きたいか、行きたくないかが大切なのよ」
「それなら、行かないさ。でも、君を一人で行かせるのは危険だから、僕も行くんだよ」重苦しい雰囲気の中、二人は沈黙した。
男は突然笑い出した。
「ほんとに、相変わらず頑固だな」
女はきょとんとした顔で男を見た。
「忘れたのかい?僕たちがこの星に来たときのことを」
女は怪訝な表情で目を閉じ、しばし瞑想した。
「あー、何てこと!私、全く成長してない・・・」
「全くだ」
「何してきたんだろう、この私は」
がっくりとうなだれる女を見て、男は苦笑した。
「だいたい、君はいつもこのパターンだな。危険だと分かっているのに飛び込む。肥溜めだと分かっているのに、肥溜めじゃないかもしれないって飛び込むようなものだね。今回は行く前に気がついただけ、成長したんじゃないか」
「だって、どれだけ年数経ってるって・・・。情けなか~」
「今度、君が地球みたいな星に行くって言ったら、もう僕はついて行かないからな」
「ごめんねぇ」
「今さらしょうがないよ。でも、もうそろそろ地球ともお別れするし。そしたら、アンドロメダにいる母さんのところで休養させてもらうよ」
「もう、私とは会ってくれないの?」
「そうだなぁ・・・。たまには、いいよ」
「良かった!」
「だけど、これだけは言っておくよ。もう二度と君の無茶には付き合わないからな!」
二人は声をあげて笑った。